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2008年12月17日 (水)

『舟越桂 ~語りかけるまなざし~』を観て(下)

  なぜこの道を

 舟越氏の父親は、具象彫刻の第一人者だった故・舟越保武氏。幼少のころから父の制作現場で彫刻に親しんで来た舟越氏は、高校1年の時に父親から「将来、何になりたい?」と問われて、「彫刻家になりたい」と答えた。そうして美大に入学したものの、ある一つの不安が胸をよぎる。何気なく「彫刻家になりたい」と言った自分自身に対して物足りなさを感じたのだった。
「ほかのみんなは、いつ彫刻家になろうと思ったか、明確なポイントがあるけれど、僕だけない、ということが物足りなかった」
  大学院に進学してからも、「自分はなぜ彫刻家を目指すのか、何のために彫刻を作るのか」と自身に問いかけつつも、尚、制作に打ち込めない日々が続く。
 そんな25歳のある日、函館郊外にある当別トラピスト大修道院に新築された礼拝堂に飾るための聖母子像の制作を依頼される。これが舟越氏の大きな転機に。
「木彫の聖母子像を」という修道院からの依頼に、柔らかくて温もりのある色合いの楠を素材として選んだ。楠との初めての出合い。鑿(のみ)を使って彫ると、ちょうどいいくらいの硬さで、自分にぴったりの素材を得た感触があった。
  しかし、名高い修道院の聖母子像を造るという重圧もあった。Funakoshi_dvd2
「実際にどんなものを造るのか見えていない、絞り込めていない時期で、だらしない生活をしている僕とマリア様とに何の接点もないじゃないかと思っていましたけれども、ある時ふと、“マリア様にとって神の子を宿すと天使に告げられた時にすごい名誉であると同時にとてつもない不安を感じたのではないか? 不安ということだったら、僕らだって日々不安の中を生きているわけで、もしかしたらマリア様と共通の部分を持っていると言えるのではないか”。そこから、考え方としては、少し楽になって動き始めた」(舟越氏)
 こうして、2年の歳月を経て聖母子像が1977年に完成。「喜びや悲しみ、不安、それを見つけた時に生まれる思いに形を与えていこう」とする制作態度が定まり、舟越氏にとって彫刻家への扉が開いた。
 舟越氏は次のように語る。
「(人間の)目は外を見ているけれども、視線が自分の内面を観ていると感じることもあります。(中略)“私を題材として人間について考えなさい”と言われているように感じることもありますね」
  この言葉から、舟越氏がモデルという個としての存在の外面に似せて彫刻を造るというよりも、むしろ「人間とは何か」という深い哲学的な命題を受け止めながら、自分なりの答えを出していこうとする――そんな制作態度を表しているように感じた。
 さらに舟越氏は、“自分の役目”について次のように語る。
「世界中で嫌なことがあったり、今も嫌なことがさも立派なことのように行われたりというのを見ます。それで腹が立ったり、やり場のない怒りを覚えたりすることはありますけれども、人にはそれぞれ役目があるっていう気がするんですね。怒りと悲しみをぶちまけるような役割を与えられているのは僕ではないような気がよくします。“それでも肯定していきたい”っていう形をとる時は僕なりに少しは役目を果たせる、そんな思いがありますね」
 人生を肯定的に捉える態度、これが舟越氏の制作スタンスなのだとこの言葉ではっきり分かった(舟越氏は別のインタビューでさらに明確に自分の役目について説明しているが、それは別の機会に紹介することとする)。

 今回、映像を通して初めて舟越氏の姿、表情を見て、人間的な温もりを感じさせる人だと思った。作品と同様にとても魅力的な人なのだ。やはり絵画と同様に、彫刻も作り手の人柄が自ずと出るものなのだなぁ、というのが率直な感想だ。
  そして、一口では言い表せない舟越氏の彫刻から、何かしら気高いものや温もり、生命感を感じさせる理由が、今回のビデオを観て分かった気がする。やはり人生に対する作者の肯定的な態度が、その作品にも現れるのだと。これには、芸術の制作に関わる者として励まされる思いがした。万人の心を打つ真の芸術とは、自己を掘り下げていった中から到達する普遍的な存在を作品を通して表したもの――そんな自分自身の目指すべき道すじに光を射し込んでくれた、いい内容のドキュメンタリービデオだった。

 小関 隆史

 2008年12月17日

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