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2011年9月 1日 (木)

TKの本棚(23)被災地への思い新たに 〜河合隼雄著『「日本人」という病』より

『讀賣新聞』(8/28朝刊)の書評欄で、臨床心理学者の故・河合隼雄さんが阪神・淡路大震災の際に書かれた文章「震災後の復興体験」という原稿が掲載されている『「日本人」という病』という書が紹介されていた。
 薄れがちな被災地への思いを新たにしたいーー。そう思って、近くの図書館で同書を借りて読んだ。
 同氏の他の書と違わず、説得力があって読み易い、というのが第一印象。読んでいると著者を前にして話を聴いているという感覚になる。

本当に分かってくれる人に悲しみを打ち明ける

 河合さんは、阪神・淡路大震災の際、奈良に住んでいて自身は大きな被害に遭わなかったものの、従兄弟を一人亡くされている。
 震災の被災者ではないが、河合さんは、心に大きなショックを受けた数多くの人の相談にのった経験から、被災者の心理を説明していく。
 そこで教えられることは、
 人間は大きなショックを受けると、自身の身を守るために、瞬時に感覚が麻痺して、その体験自体を忘れてしまうことがあるということ。なぜなら、ショックで死んでしまうことがあるから。
 しかし、人間は忘れ切ることはできず、後から徐々に思い出し、悲しみがやってくることも。個人差があり、年数を経て思い出すこともある。
 また、天災の場合、怒りの矛先を向けるところがなく、やり場のない怒りの感情を、家族に向けてしまうこともあるという。
 そこで、河合さんは、震災で出た悲しみや苦しみは、「本当にわかってくれる人に向かって表現する」といいと指摘する。つまり、悲しみを語る(表現する)側と、聴く側との人間関係が非常に大切で、信頼関係があってこそ意味があると。 
 私は、被災地に行った際に、1カ月経っても夫が行方不明だという知人に会ったが、その方も、ある時期が経ってから、自分と同じように夫と早い時期に死別した人たちに電話して相談した、とおっしゃっていた。まさに、河合さんの指摘通りだ。自分の気持ちを分かってもらい、慰めや励ましを受けることで、気持ちが前向きになる。被災者と支援者との信頼関係が大切だというのは、被災地で合わせて半月間、活動した私の実感でもある。

つながりと決断の両立という課題

 さらに、興味深いのは、被災者が震災後も暴動を起こすことなく秩序を保っていたことと、政府の対応の遅さが、「ひょっとしたら日本人の同じ心のあり方から来ている」と河合さんが指摘している点。つまり、日本人の良い面と悪い面が出ているのだと。
 その同じ心というのは、簡単に言えば、「みんなで一緒に」という考え方。今回の東日本大震災でも、「絆」「つながり」という言葉が、被災地内外を問わず、いろんなところで見られていたが、日本人には西洋の個人主義と対極にあるところの一体感がある。それが、被災地での助け合いの姿となって現れてもいた。
 一方、政府もまた、いろんな省庁間で「つながり」があり、関係各方面と「調整」をしなければ動けない、ということがあったのではないか、だから阪神・淡路大震災の時も政府の対応が送れたーーと河合さんは指摘する。
 つまり、「みんなと一緒」という日本人的な考え方は、一方では調和という良い面で現れ、他方では、危急に際しても、「勝手なことはできない」という理由で迅速な判断、対応ができず、後手後手に回ってしまう、というキケンをはらむ。
 これは、今回の東日本大震災においても同様だろう。
 そこで、河合さんは、「日本的なつながりを維持しながら、ここぞというときに決断できる自分があり得るのだろうかということを、よく考えて欲しいのです。私はそういう気持ちでさえいれば、できると思っています。簡単にはいきませんが、心に留めているだけでも、ずいぶん違うと思います」と語る。よくよく自分の肝に銘じたい。

 ほかにも、さまざまな実例を挙げて、人間の心の素晴らしい仕組みを、臨床心理学の立場から紹介している本書は、被災者も復興支援に取り組んでいる人にも、ぜひ、一読して欲しい良書だと思う。

小関 隆史

2011年9月1日

○河合隼雄著作集(第2期)10『「日本人」という病』(岩波書店)
○『「日本人」という病』(河合隼雄著、静山社文庫) 

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